DEIの最近の変化と将来への展望
目次
はじめに
企業のDEI(多様性、公平性、包摂性)への取り組みは、米国を中心に過去数十年にわたり、企業文化の中で重要なテーマとなってきました。
DEI施策を推進することで、企業は創造性を高め、革新を促進し、競争力を強化することができるとされています。 しかし、最近、いくつかの大手企業がDEI目標の縮小や廃止を発表しています。
その代表例が、マクドナルドの2025年末までの多様性目標撤回です。
この変化は、企業の社会的責任や多様性推進の方向性に大きな影響を与える可能性があります。
今回のブログでは、その背景と今後の展望について考えたことを書きました。
マクドナルドの多様性目標廃止の背景
”2025年までに、米国のリーダーの30%を「過小評価されたグループ」から登用する”という目標を掲げていたマクドナルドが、「2025年に向けた多様性目標を廃止した」と発表しました。
この決定は、主に米国における「法的状況の変化」(次項のアファーマティブ・アクションを参照してください)によるもので、特に保守系活動家や政治的な影響が背景にあるとされています。
これにより、マクドナルドは「多様性目標を数値で追うのではなく、より包括的で柔軟なアプローチにシフトする」としています。
また、マクドナルドは、ダイバーシティチームを「グローバルインクルージョンチーム」と改名しました。
この動きは、他の米国企業におけるDEI活動の縮小とも重なり、企業のDEI推進が新たな局面を迎えていることを示しています。
アメリカのアファーマティブ・アクションの歴史と影響
アファーマティブ・アクションの始まり
アメリカでアファーマティブ・アクション(AA)が本格的に導入されたのは、1964年の公民権法をはじめとする反差別政策が制度化された時です。
リンドン・ジョンソン政権は、「偉大な社会」の実現を掲げ、過去の差別により不利な立場に置かれた黒人やその他のマイノリティに対して、積極的措置を導入しました。
この取り組みは、雇用や昇進、入学の際に人種やジェンダーを考慮し、平等を目指すものです。
「逆差別」裁判と多様性の新しい目的
しかし、AAに対する反対の声が強まる中、1978年のカリフォルニア大学理事会対バッキー判決が大きな転機となりました。
この判決は、非白人学生に特定の定員を設けることが「逆差別」であるとし、AAに対する批判を呼びました。
その後、AAは単なる差別是正の手段から、より多様な学生集団を確保するための措置として認識されるようになり、企業や大学では多様性マネジメントとして定着しました。
参考図書 アファーマティブ・アクション 南川文里著 中公新書
DEI活動の縮小とその影響
最近、アメリカの企業や大学において、AAやDEI活動を縮小または廃止する動きが広がっています。
特に、2023年6月の最高裁判決によって、ハーバード大学とノースカロライナ大学の入学者選抜における人種を考慮する措置が違憲とされ、アファーマティブ・アクションの「終焉」を示唆する意見が出ています。
この影響を受けて、多くの企業も数値目標や特定の属性に基づく採用活動を見直し始めています。
企業がDEI施策を縮小する背景には、保守派の活動家による反発や、トランプ政権時代の影響があるとされます。
また、企業がDEIを取り組む際のモチベーションが、単なる社会的義務から経済的な観点に変わりつつあることも影響しています。
日本マクドナルドの方針とその影響
一方で、日本マクドナルドホールディングス(HD)は、米マクドナルドの動きとは異なり、2025年以降の多様性目標を維持する方針を示しています。
2023年1月8日、同社は「現時点で変更の予定はない」と発表し、特に女性管理職比率を2030年までに40%に引き上げるという目標を継続することを明らかにしました。
日本マクドナルドは、従業員の多様性推進に関して、引き続き前向きな姿勢を取っており、米マクドナルドの方針転換とは一線を画しています。
日本マクドナルドが多様性目標を維持する一方、米マクドナルドでは管理職に占める女性比率や人種的・性的少数者の比率の目標が廃止されました。
この変化は、保守系活動家からの圧力を受けたことが影響しているとされています。
米マクドナルドの方針転換によって、少数者の従業員が昇進や採用、給与において不利な状況に直面する可能性があるため、この動きは多くの関係者に懸念を与えています。
多様性推進の実情と今後の課題
多様性推進の意義
企業が多様性を推進することには、創造性や革新性の向上、競争力の強化といった利点があります。
また、従業員の満足度やエンゲージメントを高め、結果として企業業績の向上にもつながるとされています。多様な視点を取り入れることで、問題解決能力や新しいアイデアが生まれるため、企業の成長を支える重要な要素となります。
今後の課題と戦略
一方で、DEI活動における課題も多いです。特に数値目標を達成することに焦点を当てすぎると、他の従業員との摩擦や不公平感を生む可能性があります。
企業は、すべての従業員が公平に評価される環境を作り、バランスの取れたアプローチを採用することが求められます。
また、企業文化の変革やリーダーシップの役割がますます重要になる中で、DEI活動を進めるための戦略も進化しています。最終的には、能力や意欲に基づいた公平な評価システムが整備されることが目標となります。
以前、DEIが日本に導入された直後にセミナーに参加し、そこでGoogle(日本)の人事部の方のお話を聞く機会がありました。
Googleには多様性数値目標はなく、適材適所の採用を継続したら、組織が結果的に多様化していた、とのお話を聞きました。当時は「??」で理解不十分でしたが、この記事を書いている時に、そのころの印象を思い出しました。別記事にてGoogle多様性を紹介します。
【関連記事】 Googleの多様性推進
今後の展望と企業の戦略
DEIの未来においては、企業が数値目標にこだわるのではなく、真に多様な人材が活躍できる環境作りに焦点を当てるべきです。
これにより、企業は社会的責任を果たすとともに、長期的な経営の成長を実現することができます。
さらに、外部からの圧力に左右されず、企業の価値観に基づいたDEI戦略を追求することが重要です。
企業は、最終的に成果を追求する体制を整えるべきであり、社員が能力ややる気に基づいて評価される環境を作り出す必要があります。
DEIの取り組みが過渡期にある今こそ、企業はその最適解を見つけ、進化するべき時期に来ていると言えるでしょう。
まとめ
マクドナルドをはじめとする企業のDEI目標の見直しや縮小は、社会的・政治的な変化によるものであることが分かります。
しかし、DEIの推進には依然として大きな意義があり、企業は今後も多様性を促進する努力を続けるべきです。
その一方で、数値目標を単なる目的にするのではなく、真に多様な人材が活躍できる環境を作り出すことが企業の成長につながることを認識する必要があります。DEIの施策が過渡期にある今、企業はその最適解を見つけ出し、次のステップに進むべき時期に来ていると言えるでしょう。
この米国のDEI見直しの傾向から、日本でのDEIを見直す気運が生まれるかもしれません。
ただ注意すべき点は、米国のDEIは歴史があり、各企業が積極的に推進した結果、一部で行き過ぎた状況が生まれたので、それを少し【より戻す】ということです。 日本企業はやっとDEIが始まる状況で、“よりもどす”ほどDEIは進んでいないので、日本企業としては、DEIはどうあるべきかをしっかりと見据えた対応をすべき、と思います。