【40代からのサラリーマン人生】『せどりの女王』を読んで、会社の看板を外した「生身の自分」を考えた

はじめに

毎日、同じ時間に満員電車に揺られ、会社に向かう。気づけば、若い頃のようながむしゃらさは薄れ、なんとなく自分の出世の限界や、退職した後の生活がリアルに見えてくる。

そんな「そこそこ平穏だけど、どこかモヤモヤする日常」を過ごしているサラリーマンは多いのではないでしょうか。

先日、兵庫在住の友人から「これ、面白いから読んでみて」と一冊の本を勧められました。
高殿円氏の小説『せどりの女王』です。

せどりの女王 高殿円 著 PHP研究所

表紙を見たときは、「年商50億の女性社長のサクセスストーリーか。自分には縁のない派手な話だな」と、どこか他人事のように捉えていました。

それに、テーマの一つである「就職氷河期」についても、当時すでに会社の中堅として働いていた私にとっては、「あの頃の若い世代は大変だったらしいね」という、ニュースの向こう側の出来事でしかなかったのです。

しかし、ページをめくると、著者自身が氷河期をサバイブしてきた当事者だからこそ書ける、あの時代の生々しい空気感や、不条理な社会への怒りに触れて、「これは他人事じゃない」とゾクっとしました。

そして読み終えた今、この本は単なるお金稼ぎの物語ではなく、私たちサラリーマンが「これからの人生、どうやって自分を肯定して楽しんでいくか」という、最も泥臭く、大切なテーマを投げかけてくれていることに気づかされました。

「氷河期は大変だったね」で済ませていた自分の無知を知るリアルさ

主人公の夕映野遠火(ゆえのとおか)は、中古のブランド品を綺麗に修復して転売する「せどり」ビジネスで成り上がった47歳の女性です。

「学歴なし、家なし、容姿なし」という、個人の努力だけではどうにもならない絶望的な底辺から物語は始まります。

「お前の地獄を金に変えろ!」

作中で繰り返されるこの泥臭いメッセージは、私たちが普段、会社のルールやマナーの裏に隠している「理不尽への怒り」を激しく揺さぶります。

私たちは、現場の歪みや上司の理不尽な命令に対しても、「まあ、組織だから仕方ない」「これが大人になるってことだ」と自分を納得させて生きてきました。

しかし、遠火が社会の不条理をエネルギーに変え、世間の欺瞞を跳ね除けてぶち上がっていく姿を見ていると、胸の奥が熱くなります。

「綺麗事ばかり言っている社会に、一発食らわせてやりたい」という、サラリーマンが心の底に閉じ込めている本音を、彼女が代弁してくれているような爽快感があるのです。

会社の役職も年収も、人生を救ってくれるわけではない

物語は、上場を目前に控えた遠火が、SNSで「ずっと殺したい奴がいる」と言い残し、1億円をばら撒いて失踪するという大騒動から幕を開けます。

このサスペンス的な展開の面白さもさることながら、40代以上の心に最も突き刺さるのは、物語の終盤で描かれる「本当の自立」の意味です。

遠火は年商50億円を稼ぐ成功者になっても、過去の傷や怒りから抜け出せずにいました。
しかしラスト、彼女はある大きな決断を下し、過去の呪縛をきれいに断ち切ります。

ここで著者が語りたいのは、「お金を稼ぐことや、社会的に成功することは、生き抜くための強力な『手段』にはなるけれど、それ自体が人生のゴールではない」ということです。

私たちはつい、「課長になった」「年収がいくらになった」ということで自分の価値を測りがちになります。
しかし、それは会社という狭い枠組みの中だけの評価です。
本当の救済とは、そんな外側の数字から解放されて、「これからの人生を、自分のためだけに生き始めること」なのだと、彼女の決断が教えてくれます。

看板を外したとき、あなたには何が残るか

結末で遠火が見せる姿は、50億の社長という肩書きも、SNSのフォロワーもすべて削ぎ落とした、ただの「生身の一人の人間」です。

世間的なレールからはみ出し、破天荒に見える生き方かもしれませんが、自分の頭で考え、自分の手で汗をかいて生き抜いてきたという事実だけは、誰にも奪えない彼女だけの「尊厳」として輝いています。

この本を読み終えて深く心に残るのは、大それた成功物語の興奮ではありません。
「どんな状況であれ、自分をちゃんと肯定して、人生を楽しんでいこう」という、等身大の温かい姿勢です。

長年、サラリーマンとして会社の看板を背負って戦ってきた私たちは、その看板を外したとき、一人の人間としてどれだけ自分の人生を楽しめているでしょうか。

「何を持っていようが、いまいが、お前はお前として堂々と生きていい」

というメッセージは、組織の中で個性を押し殺しがちな私たちの背中を、優しく、しかし力強く押してくれます。

定年やその後の人生に不安を覚える必要はありません。
もし今、仕事や人生に閉塞感を抱えているなら、そのエネルギーを次のステップの原動力に変えればいいのです。

『せどりの女王』を読み終えたとき、あなたの胸には「さあ、俺もここから自分の人生をどう楽しんでやろうか」という、小さくも確かな火が灯っているはずです。

もしあなたが今、これからの生き方に少しでも迷いを感じているなら、自信を持ってこの本をおすすめします。

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