オーケストラに学ぶリーダーの視線――山田和樹さんの育成術

はじめに

指揮者・山田和樹さんの言葉に、深く心を揺さぶられました。

NHK【あさイチ】のプレミアムトークで紹介された、ベルリン・フィルとのリハーサルや、独自の楽譜の色分け術は、音楽に詳しくない私でも学びの多い内容でした。
(2025年11月21日放送)

実は私は音楽に精通しているわけではありません(最近ウクレレを始めましたが、それくらいです)。

それでも、山田さんが語る「指揮者はオーケストラとの会話が大事」という言葉には、組織マネジメントにも通じる深い含意があると感じました。

指揮者は“対話の専門家”

指揮者は単にタクトを振る人ではありません。
演奏者それぞれの呼吸や視線を感じ取り、全体の音楽を導く“対話の専門家”です。

オーケストラは数十名から百名規模の組織ですが、その中心に立つ指揮者は、
「全員の力をどう引き出し、どう一つにまとめるか」というリーダーシップの本質を担っています。

若手育成の現場で見えた本質

ある若手指揮者の育成シーンで、山田さんがそっと伝えた一言が心に残りました。
「バイオリンの彼女は、あなたの合図を待っていましたよ」
若手は、演奏者からの視線に気づかず、入りのタイミングを逃してしまったのです。

山田さんは続けます。
「指揮棒でもアイコンタクトでも、方法は何でもいい。あなたの意図を相手に伝えてあげてください」

これは技術指導ではなく、“人を動かすうえで最も大切なもの”を教えている言葉だと感じました。

一人を見ることで大勢が動く

指揮者の役割は全体を見ること。

しかし、大勢を動かすためにはまず“目の前の一人”を見ることが必要です。

誰が迷い、誰が不安で、誰が合図を必要としているのか。

その“小さな気づき”の積み重ねこそが、最終的にオーケストラ全体の音を変えていきます。

さらに山田さんは、曲のイメージを「季節感」「メロディ」「温度」など、複数の言語で伝えていました。
国や文化が異なるオーケストラを率いる経験の中で磨いた、豊かな“引き出し”を持っておられるのだと感じました。

柔軟なコミュニケーションの極意

山田さんには、音楽の解釈力、情熱、国際的視野など多くの強みがあります。

しかし、私が最も印象を受けたのは、一人ひとりに寄り添う柔軟なコミュニケーション力でした。

演奏者の個性や気質に合わせて関わり方を変え、「その人が最高の音を出せる状態をつくる」

これを自然にやってのけるのが山田さんのすごさです。
またこれは、どんな組織にも通じるリーダーシップそのものです。

ベルリン・フィルが語った「一体感」

ベルリン・フィルとの共演後、山田さんが特に嬉しかったのは、
「だいぶ前からの友人であるかのように見えた

この言葉は、ベルリン・フィルの演奏後に書かれた記事で、山田さんとオーケストラの間に自然な親しみや一体感があったことを示す評価でした。世界トップのオーケストラに対して「初共演なのに長年の友人のように感じられた」というニュアンスは、指揮者として非常に高い信頼と共感を得た証です。

これは技術評価ではありません。
短いリハーサル期間であっても、心が通じ合った瞬間が生まれたという、指揮者にとっては最高の賛辞です。

世界のトップ演奏者がそう言うほど、山田さんのリーダーシップは“人の心と音楽”をひとつに束ねる力を持っているのだと思います。

組織マネジメントに置き換えると

会社で30人の部下がいたとして、
 ・毎日話すのは5人
 ・数日に一度話すのが10人
……残りの15人とは、いつ話したか覚えていない。

そんな経験はありませんか?

しかしオーケストラは、リハーサル2日+本番=わずか3日。
その短期間で、数十名と心を通わせ、同じ方向に向かわせる必要があります。

それでも山田さんは「一体感があった」と言わせる。

この“短期間で信頼を築く力”は、 現代の組織マネジメントにも大きな示唆を与えます。

おわりに

オーケストラは大人数の集まりですが、その本質は“一人ひとりとの対話”の連続です。

山田和樹さんの姿勢は、

リーダーシップとは、大勢を見る前に、一人を見ること。
そして短時間であっても心を通わせようとする努力が、組織全体の力を大きく動かすということを教えてくれます。

そこには、音楽を超えた普遍的な“人の動かし方”が詰まっていました。

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