『子は親を救うために「心の病」になる』を読んで激震。部下の不調は「上司へのサイン」かもしれない
はじめに:ある勉強会で手渡された一冊の本
先日、参加している勉強会で、あるメンバーからこう勧められました。
「部下の育成に悩み、組織の人間関係に葛藤している管理職にこそ、読んでほしい本がある」
手渡されたのは、『子は親を救うために「心の病」になる』(高橋和巳 著)という書籍です。

子は親を救うために「心の病」になる 高橋和巳 著(ちくま文庫)
私自身、企業で長年働き、現役時代は管理職として部下のマネジメントに悩む日々を経験してきました。
プライベートでは二人の子どもを育て上げましたが、当時は日々の生活や仕事に追われ、ここまで親子関係を深く考えたことはありませんでした。
「現役時代に、この本を早く読んでいればよかった」というのが、本を閉じたときの率直な感想です。
一見すると子育てや家族心理学の本ですが、読み進めるうちに、これは会社での「上司と部下の関係性」にそのまま当てはまる、とても重要なビジネス書でもあると確信しました。
今回は、サラリーマンOBの視点から、この本が教えてくれたマネジメントの本質について、等身大の言葉でお話ししたいと思います。
「問題児」が家庭を救っている? 家族療法という驚きの視点
本書の土台にあるのは、「家族療法」という心理学の考え方です。
ここでは、心の病や不登校になった子ども単体を問題視するのではなく、「家族という一つのシステム」全体の問題として捉えます
例えば、家庭内に夫婦不仲や親の強いストレス、あるいは未解決のトラウマといった不和(システムのバグ)があるとき、子どもは本能的にその危機を察知します 。
そして驚くべきことに、自分が「問題児」になったり「心の病」を患ったりすることで、家族の焦点を自分に集めようとするメカニズムが働くのだそうです 。
親は「子どもの看病や問題解決」という共通の目的に没頭するため、一時的に夫婦の決裂や親自身の精神的な破綻が「先送り」されます。
つまり、子どもは自らを犠牲にして、家庭の崩壊を必死に防ごうとしている。
これが「子どもが親を救う」という意味であり、著者はこれを子どもの無意識の「究極の愛の形」だと説明しています。
この状態から抜け出すには、子どもを無理に治そうとする(コントロールする)のをやめ、親自身が自分の課題にむき合うことが不可欠です。
問題の主語を「子ども」から「親自身」に変えたとき、子どもは役割から解放され、自然と回復へ向かうといいます 。
職場にスライドして見えた、部下と上司の「親子関係」
この親子関係の構図は、会社の「上司と部下」の関係性にも見事に当てはまります。
職場で「メンタル不調に陥る部下」や「急に辞めてしまう部下」、あるいは「言われたことしかやらない主体性のない部下」を見たとき、私たちはつい「最近の若い奴は……」「本人のメンタルが弱いからだ」と、部下個人の問題にしてしまいがちです。
しかし、家族療法の視点を取り入れるなら、部下の状態は「上司の関わり方や、組織風土の歪み」を部下が身を挺して示してくれているサイン(鏡)なのかもしれません。
- 部下が「指示待ち」になってしまうのは、上司である私たちが正論でコントロールしすぎた結果、挑戦して失敗したときの「心理的安全性」を奪っていたからではないか。
- 部下が「本音を言わない、報連相が遅い」のは、こちらが普段から忙しそうなオーラを出して、否定的なフィードバックを無意識に返していたからではないか。
原因を部下に求める(主語を部下にする)のをやめ、「自分のどんな関わりが、この状況を作り出しているのだろうか」と、自分にベクトルを向けてみる。
そう思い至ったとき、私は現役時代の数々の苦い経験を思い出し、背筋が冷たくなるような思いがしました。
私たちが陥りがちな「正論」の罠と、耳を傾ける4つのステップ
では、部下が悩んでいるとき、上司としてどう関わればいいのか。
本書では、相手の話を聞く際に「評価・解決・誘導」を徹底的に脇に置くことが最も大切だと述べています。
良かれと思って「こうすれば上手くいくよ」「そこはもっとこうしなきゃ」と上司側の正論(過去の成功体験)でアドバイスしてしまうのは、私も含めてベテラン管理職が一番陥りやすいNG行動です。
部下から見れば、それは「自分の現状への否定」や「上司の価値観の押し付け」に映ってしまいます。
人が本当に動くのは、正しい意見をぶつけられた時ではなく、「自分の状況や感情を、まず100%理解してもらえた(受け止められた)」と安心できた時だけです。
本書が提示する、子どもの心に寄り添う4つのステップは、そのまま職場でも使えます。
1「ただ聴く(ジャッジしない)」:自分の意見や正論を100%引っ込め、部下が見ている世界をそのまま受け止める。
2「感情にラベルを貼る」:事実追及よりも、「それは悔しかったな」「怖かったんだね」と相手の感情を言葉にして(ミラーリングして)返す。
3「沈黙を恐れず、待つ」:言葉に詰まった部下を質問攻めにせず、「ゆっくりでいいよ」とじっくり待つ安心感を提供する。
4「話してくれたこと自体を承認する」:耳が痛い話であっても、最後は「本音を話してくれてありがとう」と締めくくる。
上司が常に答えを与え続けていると、部下は自分で考えることを放棄し、上司の顔色を伺うようになります 。これは、親の期待に応えようとして自分を見失う子どもと同じです。
「あなたはどうしたい?」という問いを立て、伴走者として部下の頭の中にある答えを引き出すことが、本当の育成なのだと学びました。
おわりに:上から引っ張るマネジメントから、横で伴走する関係へ
私たちが若い頃は、上司が「ピラミッドの頂点に立って引っ張り、教え、正す」というマネジメントが主流でした。
しかし、変化の激しい、多様性が求められる現代において、そのスタイルは組織や部下に無理な歪みを生み出してしまうことがあります。
いま求められているのは、上から引っ張る意識から、「前線に立ちつつも、部下が動きやすい環境を整え、じっくり耳を傾ける」というフラットな視点(水平マネジメント)へのシフトです。
部下の不調や問題行動は、あなたを困らせるためのものではなく、「今のマネジメントのままで大丈夫か?」と教えてくれている、彼らからの身を挺したメッセージなのかもしれません。
現役時代にこの視点を知っていれば、もっと違う関わり方ができたかもしれない――
そんな切実な思いを込めて、今まさに職場で悩み、葛藤している管理職の皆さんに、ぜひ一読をお勧めしたい一冊です。

