選択の科学:ジャム実験から学ぶ、消費者行動と意思決定の影響力

『選択の科学』  シーナ・アイエンガー著 を読みました。

著者のアイエンガーさんはコロンビア大学の教授で、「ジャムの実験」で有名な方です。

それは、「選択のプロセスと選択肢の数の関係について」の興味深い実験です。

「選択のプロセスと選択肢の数」:ジャム実験から見る消費者行動

著者のアイエンガーさんは「ジャムの実験」において、2つの条件を作りました。

一つは多くのジャムの種類が陳列された条件であり、もう一つは限られた数のジャムが陳列された条件です。

多くのジャムの種類が陳列された場合、消費者は多様な選択肢に興味を持ちます。しかし、実際にジャムを購入する人は少なくなります。

一方、限られた数のジャムが陳列された場合、消費者は少ない選択肢に集中しやすくなりますが、実際にジャムを購入する人は増えます。

この実験は、選択肢の多さが人々の行動に与える影響を示す具体的な例として広く引用されています。

実験では、6種類のジャムと24種類のジャムをそれぞれテーブルに用意し、選択肢の多さが実際の決定・決断に与える影響を調べました。

実際にジャムを買った人の割合は、6種類の場合は100人のうち30人(30%)、24種類の場合は100人のうち3人(3%)と非常に大きな差が開きました。

この実験結果から、選択肢が多い場合には消費者が選びづらくなり、結果として購買率が下がることがわかります。

一方、選択肢が限られている場合には、消費者はより容易に決断し、購買行動が促進されることがわかりました。

つまり、一言で言うと・・本の内容は「選択」についてです。

わたしたちが「選択」と呼んでいるのは、自分自身や自分の置かれた環境を、自分の力
で変える能力のことである。
選択するためにはまず、「自分の力で変えられる」という認識を持たなくてはならない。

「選択の科学」の実験:選択肢の多さと購買行動の関係

昔(私の小学校の頃の話をしてもしょうがないですが・・)は、買い物は近所のお店に行きました。

母と一緒に買い物に行く際は、買い物かごを持って、歩いて行きました。

野菜は八百屋さん、魚は魚屋さん、肉は肉屋さんというとてもシンプルな買い物でした。

今は、ネットで検索して、多くの選択肢から何をクリックするかを選べます。

また、車で複数のスーパーマーケットに行くこともできる等、昔より多くの選択肢から選ぶことができます。

しかし、それが本当に便利か?というとどうでしょうか。

実際にはすべての選択肢から一つを厳選する、というよりも、ネットであればアマゾン推奨、
スーパーであれば品揃えが丁寧なY店に行くなど、多くの選択肢をフルに活用しているという場
面は少ないな~と個人的に感じます。

シーナ・アイエンガー教授の実験はアメリカで行われました。

仮に日本人が同様のテストを行った場合、予想される結果は個人によって異なるかもしれませんが、次のような傾向が考えられます。

日本人の選択傾向:慎重な意思決定と不確実性回避

日本人は一般的に、慎重な意思決定を好み、不確実性を回避する傾向があります。

選択肢が多い場合でも、細部や違いを慎重に比較検討し、バランスを考慮しながらリスクを最小限に抑えた選択をする傾向があります。

この点をホフステード文化次元で掘り下げて考えてみます。

日本人は、「不確実な内容や状況を避けたい」という気持ちが強いという特徴があります。

例えば、新たな業務提案をした際、上司から「それって前例あるの?」(前例がないから新しい提案なのですが・・)と聞かれたりすることがありました。

選択肢が多いということは、知らないこと(もの)に対して新たに決定・決断を下さなければ
いけないことを意味します。

それは、「不安定な内容・状況を避けたい」と思う日本人にとって、あまり受け入れ難い状況と思われます。

だから、我々が選択する内容は、(大きな選択ではなく)小さな選択をまず行い、その後に
再度小さな選択を積み重ねていくことで、結果的に大きな選択につながるのではないでしょう
か?

人生の選択の事例

これを我々の日々の行動に照らし合わせてみたとき、いくつか思い当たる事例がありますの
で、ご紹介します。

1,関西在住Yさんの例
製造業の営業事務をしていましたが結婚で退職。

夫の勤務地近くで生活し、子供が保育園に入ったら社会復帰する予定でいました。

しかし、子供に障害があることがわかり社会復帰どころか今まで興味関心がなかった福祉の世界へ足を踏み入れます。

そこから10年超。福祉の知見が増え、学校や福祉施設、市役所と関わるようになりました。

現在、市の福祉サービスに関するお手伝いをしています。

2,広島在住Yさんの例
Yさんは学生時代は教員志望でしたが、工場向けのソフトウェアを作る会社に就職したそう
です。

きっかけは「この仕事、あなたにも向いている気がするよ」という友人の一言だったとのこと。

軽い気持ちで入ったにも関わらず仕事内容は面白く、忙しいながらも充実していたそうです。

当時世の中に出てきたばかりのHTMLを学ぶことも。

そのうち会社から「新入社員の研修をやってみませんか?」と声をかけられ、数年の間新入社員研修を担当し、人に何かを教える技術をおぼろげに掴んだそうです。

その時に会得した技術を活かし、現在は小中学生を相手に個人塾で指導しているとのことです。

3,谷口のサラリーマンから独立する経緯
私がセミナー講師を始めたきっかけですが、企業内の子会社で、物流コンサル事業を開始し
ました。

しかし、物流コンサルの仕事は少なく、以前、社内勉強会で実施したPDCA(施策進捗の管
理方法)や、部下とのコミュニケーションのコツとヒントのセミナーを開催したことが始ま
りでした(当時はなぜ物流コンサルがマネジメントコンサルをするのか?と疑問に持つ方も
居られました)。

その後、お客様からの要望で、ジェンダー(性差)、ダイバシティ(多様性)、経営戦略等に
セミナー対象領域を広げていきました。

当時の選択としては、やるか? やらないか? の単純なものでしたが、過去に実施経験があ
る内容でしたので、「やる」と決めることに大きな躊躇はありませんでした。

その後にセミナーの領域を拡大する際も、徐々に進めることで対応ができました。

私の選択は当時は二択(やる、やらない)でしたが、「やる」を選択できたことで、その後の
人生が大きく変わることになりました。

どれも、目の前の小さなことに注目して(いわゆるスモールステップの積み上げ)それ
を選択し、その後また小さな選択をして…という小さな選択の積み上げが気づくと大きな人生
の転機となっている、という、身近にある話です。

サラリーマンの選択肢:55歳での転機と新たな道への選択

さて、サラリーマンの選択ですが、55歳(一般的ですが)に転機が訪れることがあります。

役職定年、出向、転籍等で、将来のキャリアや生活設計に関わる重要な選択を迫られることがあります。

そして、新しい環境に移った後に「ああ、こんなはずじゃなかった」等のボヤキを聞くことが多いです。

その理由として、サラリーマン時代は自分自身であまり多くの選択肢を持つことがありません。

それは会社指示の(社命として)部署変更や転勤等が行われるので、それに従う人生だったからではないか?と思います。

ですから、55歳となり、そろそろだな・・と感じていても、過去に選択肢を選んだ経験がないので、会社指示待ちとなる傾向が多いです。

また、会社を辞めて自分で仕事をはじめるのだ!と決めると、逆に今度は選択肢が無数にあり過ぎて、なにをすればいいのか?

と先が見えなくなる場合が多いのではと考えられます。

ですから、55歳前後のサラリーマンは、今目の前にある(はずの)選択肢を見つけて、

今から「選択肢を選ぶ」訓練をする必要があるのでは?と私は提案したいです。

小さな選択を積み重ねると、新たな人生と出合える(かも)です。

選択し続ける人生

人生は常に選択の連続です。

最後にこの本から引用すると、

選択というプロセスは、ときに私たちを混乱させ、消耗させる。
考えるべきこと、担うべきことがあまりにも多すぎて、安楽な道を選びたくなることがあっても、無理はない。
選択にこれほどの力があるのは、それがほぼ無限の可能性を約束するからに他ならない。
しかし、可能性は未知数である。
選択を利用して自分の思い通りに人生を変えることもできるが、それでも人生は不確実性に
満ちている。
それどころか、選択に力が宿っているのは、世界が不確実だから、とも言える。

もし未来がすでに決まっているのなら、選択にはほとんど価値はなくなる。

だか選択という複雑なツールを武器に、この不確実な未来に立ち向かうのは、ワクワクする
と同時に、怖いことでもある。

「選択の結果は自分の責任であり、それを回避するなら選択はできない」という(終わりのない)

無限ループに我々は居るという事を認識しつつ、日々選択をし続ける人生が待っている!

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